
続・Nod ファミリーの謎物語
~NLRと細菌の相互作用
目次
第一章 細菌と感染症
細菌の種類と感染症
私たちの体にはどんな細菌がいるのか
常在細菌の役割
常在細菌も時には悪者になる
第二章 NLRの機能
Nod-like-receptorとは
Nod1, Nod2
インフラマソームを形成するNLR
NLRP3
NLRC4
NLRP1
NLRP6
NLRP12
第三章 NLRと病原細菌
サルモネラ感染
EPEC、EHEC、C.rodentium感染
ヘリコバクターピロリ菌の感染
ディフィシル菌感染
常在細菌とNLR
第一章 細菌と感染症
細菌の種類と感染症

細菌をグラム染色法で染色すると青紫に染まるものをグラム陽性菌、赤色に染まるものをグラム陰性菌とよんでいます。グラム陽性菌は細胞壁が厚いのに対して、グラム陰性菌の細胞壁はきわめて薄いですが、グラム陽性菌にはない外膜が存在しています。外膜の外側脂質層はリポ多糖(LPS)があり、リピッドA、コア多糖、O抗原多糖からなっています。グラム陰性菌には繊毛を持つものがあり、泳ぐものがいます。
細菌の種類についてもう少し詳しく見てみましょう。
一口に細菌といってもいろいろいます。
形を見ても、球菌、桿菌、らせん菌の3基本形に分けられ、またこれらも、ブドウ球菌、レンサ球菌、双球菌など、配列の仕方に違いがあります。
また、細菌が生きるのに、酸素を要求するものや無酸素状態を要求するものなどさまざまです。偏性好気性菌 : 増殖のために酸素を必要とするもの。偏性嫌気性菌 : 酸素の存在が有害であるもの。通性嫌気性菌 : 酸素の有無に関わらず増殖するもの。のように分類されています。
中には毒素を持っていて、感染症を引き起こす細菌もいますが、非病原性で私たちの体の中や環境中に常在している細菌も多く存在します。
一部の細菌についてあげてみました。
| 細菌属 | 特徴 | 細菌名 | 細菌の特徴 など | 関連する感染症 | |
グラム陽性菌 | バチラス属 Bacillus | 通性嫌気性 桿菌 胞子形成する ほとんどは非病原性 土壌に多く存在 | 納豆菌 B.subtilis | 土壌に多く存在 納豆に利用 | 非病原性 |
| セレウス B.cereus | 環境中に存在 外毒素Hbl, Nhe, cytKをもつ | 下痢型と嘔吐型がある。芽胞は加熱にも耐えるので、食中毒の原因菌になる。 | |||
| 炭疽菌 B. anthracis | 毒素プラスミドpXO1をもつ(外毒素PA, EF, LFをコード) | すり傷などから侵入して皮膚炭疽、ほこりや食物とともに摂取することによって肺炭疽、腸炭疽を引き起こす。 | |||
| ビフィドバクテリウム属 Bifidobacterium | 偏性嫌気性 桿菌 非病原性 腸内常在細菌 | B. breve | ヨーグルトによく用いられる | 非病原性 | |
| B. longum | 腸内常在細菌 | 非病原性 | |||
| B. adolescentis | 腸内常在細菌 | 非病原性 | |||
| クロストリジウム属 Clostridium | 偏性嫌気性 桿菌 胞子形成する ほとんどは非病原性 | C. tetani | 土壌中に芽胞の形で多く存在。テタヌストキシンを産生 | 傷口から感染し、破傷風の原因になる。 | |
| C. perfringens | 腸内常在菌。 一部の菌種は毒素を産生 | 食中毒の原因になる。また傷口に感染して、重篤なガス壊疽を起こす事もある。 | |||
| C. botulinum | 土壌中などに存在。 ボツリヌストキシンを産生 | 真空パックの食品内部で増殖して摂取によりボツリヌス食中毒を起こす。ハチミツなどに含まれる芽胞が乳児の腸内に定着する乳児ボツリヌス症なども起こす。 | |||
| C. difficile | 腸内常在細菌 | 抗生物質に比較的抵抗性で、抗生物質大量投与時に、他の腸内細菌が死滅したときに過剰に増殖して(菌交代症)、偽膜性大腸炎の原因になる。 | |||
| ラクトバシラス属(乳酸菌) Lactobacillus | 通性嫌気性 桿菌 乳酸を産生 | 腸内常在細菌 | 非病原性 | ||
| デーデルライン桿菌Doderlein | 膣内常在細菌 | 非病原性 | |||
| L. acidophilus | ヨーグルトに用いられる | 非病原性 | |||
| L. casei | ヨーグルトに用いられる | 非病原性 | |||
| リステリア属 Listeria | 通性嫌気性 桿菌 細胞内寄生細菌 | L. monocytogenes | リステリオリジンOを産生して、ファゴソーム膜を破壊して細胞質に抜け出し、殺菌機構から逃れる | 本菌に汚染された食物を摂食した後に髄膜炎や敗血症を発症する。感染した母体から胎盤を介して胎児に感染して、流死産や胎児敗血症、また新生児髄膜炎や新生児敗血症の原因になる。 | |
| プロピオニバクテリウム属 Propionibacterium | 桿菌 | P. acnes | にきびの原因 | ||
| ブドウ球菌属 Staphylococcus | 通性嫌気性 球菌。ぶどうの房状。 常在細菌。病原体の侵入を防ぐバリヤーの役割の一端を担っている。 | 黄色ブドウ球菌 S. aureus | 鼻腔や表皮に常在 外毒素TSST-1をもつ。 | 皮膚感染症。肺炎、肺化膿症。嘔吐を伴う食中毒。毒素性ショック症候群。 | |
| S. epidermidis | 鼻腔や表皮に常在 | 通常、非病原性。まれに手術の際に体内に侵入して化膿症の原因になることがある。 | |||
| S. saprophyticus | 泌尿器周辺の皮膚に常在 | 尿路に侵入して尿路感染症の原因になることがある。 | |||
| レンサ球菌属 Streptococcus | 通性嫌気性 連鎖球菌 | 肺炎球菌S.pneumoniae | α溶血性 双球菌 | 肺炎などの局所性、敗血症、髄膜炎など全身性感染症を引き起こす。 | |
| S. pyogenes | β溶血性 | 咽頭扁桃炎、急性糸球体腎炎新生児の細菌性髄膜炎、敗血症 | |||
| S.mitis | γ溶血性。口内常在細菌。 | 問題になることはない | |||
| グラム陰性菌 | バクテロイデス属 Bacteroides | 偏性嫌気性 桿菌 | B. fragilis など | 腸内常在細菌 | 非病原性。 まれに日和見感染が起こることがある。 |
| ボルデテラ属 Bordetella | 偏性好気性 | 百日咳菌 B. pertussis | 外毒素PT | 百日咳の原因菌 | |
| 大腸菌属 (エシェリキア属) Escherichia | 通性嫌気性 桿菌 | E. coli | 腸内常在細菌 | 非病原性のものとO157のように病原性で下痢や腸炎を起こすものがある | |
| フランシセラ属 Francisella | 偏性好気性 | 野兎病菌 F. tularensis | 人畜共通感伝染病菌 感染力がきわめて強い | 波状熱、頭痛、悪寒、吐き気、嘔吐、衰弱、化膿、潰瘍 | |
| ヘリコバクター属 Helicobacter | らせん菌 | ピロリ菌 H. pylori | ウレアーゼを産生する。尿素を分解してアンモニアを作り、胃酸を中和。 | 慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃癌やMALTリンパ腫を引き起こす。 | |
| クレブシエラ属 Klebsiella | 通性嫌気性 桿菌 | 肺炎桿菌 K. pneumoniae | 肺炎、腹膜炎、菌血症、敗血症などを起こす場合がある。日和見感染や菌交代症の原因菌。 | ||
| レジオネラ属 Legionella | 好気性 桿菌 細胞内寄生細菌 | レジオネラ L. pneumophila | 食胞膜を変化させて殺菌機構を逃れ、肺胞マクロファージ内で増殖することが可能 | 肺胞マクロファージに感染することによって発病。レジオネラ感染症(レジオネラ肺炎およびポンティアック熱)の原因になる。 | |
| ナイセリア属 Neisseria | 好気性 双球菌 淋菌、髄膜炎菌以外は口内常在細菌 | 淋菌 N. gonorrhoeae | 淋病(性感染症) | ||
| 髄膜炎菌 N. meningitidis | 髄膜炎 | ||||
| シュードモナス属 Pseudomonas | 偏性好気性 桿菌 | 緑膿菌 P. aeruginosa | 土壌、水などの環境中や消化器官に存在する 外毒素Aを産生 | 健常人には感染しないが、免疫力が低下すると緑膿菌感染症(日和見感染)を引き起こす。 | |
| P. putida | 水まわりに存在 | 非病原性 | |||
| サルモネラ属 Salmonella | 通性嫌気性 桿菌 細胞内寄生細菌 | S. Typhi | III型分泌機構をもち、細胞質内にエフェクター分子を注入する | マクロファージに感染して菌血症を引き起こす | |
| S. Typhimurium | 腸管上皮細胞に感染して胃腸炎を起こす | ||||
| シゲラ属 Shigella | 通性嫌気性 桿菌 細胞内寄生細菌 | S. dysenteria S. flexneri S. boydii S. sonnei | III型分泌機構をもち、細胞質内にエフェクター分子を注入する シガトキシン(外毒素)を産生 | 赤痢(下痢、発熱、発熱を主症状とし、しばしば、しぶり腹を伴う膿粘血便が見られる。) | |
| ビブリオ属 Vibrio | 通性嫌気性 桿菌 好塩性 アルカリ性 | コレラ菌 V. cholerae | コレラ毒素を産生 | O1型のコレラ菌はヒトに経口感染してコレラの原因になる。非O1型コレラ菌は感染性胃腸炎の原因になる。 | |
| 腸炎ビブリオ V. parahaemolyticus | 溶毒素(TDH,TRH)をもち細胞膜に作用して、細胞傷害を起こす | 食中毒の原因 | |||
| エルシニア属 Yersinia | 通性嫌気性 桿菌 | ペスト菌 Y. pestis | ペスト(リンパ節が腫れる、敗血症、肺炎、潰瘍) |
私たちの体にはどんな細菌がいるのか?
私たちの体にはいっぱい細菌がいます。私たちの細胞の10倍いると言われています。とくに腸内には人それぞれ違うけど、腸内容物あたり数千万~数十億の細菌が住んでいます。しかも数千種類いて、人それぞれで違ったりして。私たちは、彼らとときに仲良く、ときに喧嘩しながらつきあっているのです。
生まれた赤ちゃんには細菌がいない(germ-free)ですが、生まれたとたんにお母さんや周りから細菌が付着したり、おなかの中に入ってきます。特に破水して赤ちゃんが生まれてくるお母さんが生まれてくる途中では、子宮下部、膣を通るわけですが、そこにはたくさんの細菌がいます。大半のお母さんは病気になりにくい細菌たちをもっていて、赤ちゃんは無事お母さんからいろいろな細菌をもらいます。帝王切開で生まれた赤ちゃんも、お母さんなどと触れ合うことでたくさんの細菌をもらいます。
腸にはどんな細菌がいるか見てみましょう。
小腸は乳酸菌やプロテオバクテリアが多く、大腸ではバクテロイデス目やクロストリジウム目が増えてきます。 細菌の多くは私たちと同じ栄養物を食べることができるからです。 腸内にいる大腸菌などのエンテロバクテリアは無機窒素化合物があれば、自分でタンパク質の素であるアミノ酸を全て作ることができます。ところが、腸内の乳酸菌(Lactobacillus)なんかになるとアミノ酸を合成する酵素を全て揃えておらず、独りでは生きていけないです。だから、栄養がいつも来るような状態で細菌が住んでいるのです。小腸の細菌は自分で栄養物が作れようが作れまいが、私たちのご飯の横取りをして生きているんです。ところが、私たちが栄養を小腸で吸収すると、今度は彼らの栄養が少なくなります。 でもバクテロイデス目やクロストリジウム目は平気です。 なぜなら、人が分解できないような食物繊維を食べることができるから。 セルロース、キシランやキチンなど糖が繋がった多糖体を1つ1つの単糖へと分解する酵素を持っていて栄養にできるのです。さらに腸内の粘膜分泌物、ムキンの糖も壊して食べるものもいます。
常在細菌の役割
常在細菌は人が自分で分解できない食物を分解し、栄養物として腸から吸収できるようにします。常在細菌は私たちの体になくてはならないものなのです。
さらに常在細菌は病原菌から守るのにも重要な働きをしています。
ささっと生えることで他の細菌、たとえば病原菌に打ち勝つことができます。単糖・二糖やアミノ酸、鉄といった一般的な栄養要素のような環境因子について常在細菌たちは互いに、そして病原と競合するのです。
また細菌は一旦成長すると自分に適した環境を作ります。例えば、乳酸菌の仲間は乳酸を出し、弱酸性の環境を作ります。そうすると中性のpHの好きな細菌は生えにくくなります。
こうした増殖性、pHシフトは相手を倒すのに使える戦略です。さらに、過酸化水素水H2O2を生産するやつもいます。抗生物質を出して競争相手を殺すやつもいます。腸内では、自分と似た細菌を殺すバクテリオシンBacteriocinsと呼ばれる、タンパク質性の対細菌用の毒を出すものもいます。対細菌用の毒ですので、ヒトには効かないものがほとんどで、近似種によく効き、無毒な乳酸菌やプロテオバクテリアなんかももっています。
常在細菌も時には悪者になる
しかし、私たちの体にいる細菌は必ずしもいい細菌はありません。善玉細菌とか言われているような細菌でも、私たち宿主の組織内に入ってくると炎症を起こすものです。 たとえば、腸が傷ついて、腸から細菌が入り炎症を起こすと、敗血症、心内膜炎などの障害を起こして死に至ることもあります。従って、常在細菌はいい細菌と悪い細菌としての顔を持っているといえます。
また、常在細菌は病原の発育を助けることもあります。病原菌Citrobacter rodentiumは、人の病原性大腸菌と同じようにマウスの大腸に感染するエンテロバクテリア科の細菌ですが、腸上皮にくっついて炎症や障害を起こして栄養を摂ります。これはエンテロバクテリア属の餌を食べてしまう腸内細菌が存在するときだけ起きます。このように腸内細菌は決して、病気を防ぐだけではないです。
第二章 NLRの機能
Nod-like-receptorとは
腸には非常に多くの細菌が存在します。その多くは食べ物を分解して栄養を作ったり、免疫システムを強化したりと、私たちの体に有利に働く細菌であるけれども、私たちの体に害を与える病原性細菌も存在します。免疫システムはこういった病原細菌を排除するのに重要な働きをしています。特に自然免疫システムが重要であり、パターン認識レセプター(PRR)に分類されるToll様レセプター(TLR)やNOD-like レセプター(NLR)は細菌や内在性物質を認識し、それぞれの応答によりちがった免疫システムを誘導します。
ここでのお話はNLRに絞ります。このページではNLRの機能と、病原細菌に対する生体防御、および腸内細菌叢に対する役割についてお話しします。(nodファミリーの発見の経緯、他の免疫システムや基礎的なことを知りたい場合は「Nodファミリーの謎物語~アポトーシスから炎症へ」も参考にしてください。)
NLRは細胞内に存在するタンパク質で、哺乳類では約20種類のメンバーから構成されます。。Pathogen-associated molecular patterns (PAMPs)やDamage-associated molecular pattern molecules (DAMPs)といった細菌の構成成分や細胞質内タンパク質の認識にかかわる。中央にヌクレオチド重合体化ドメイン(NOD)、C末端側にリガンドを認識すると考えられるLRR、N末端側にCARDやPyrinといったエフェクタードメインを持つのが特徴です。NLRがDAMPsやPAMPsを認識すると、NF-kBやMAP kinaseの活性化による炎症性サイトカインの産生や、プロテアーゼ活性化によるIL-1bとIL-18を分泌がおこります。
最初におもなNLRについて分子メカニズムを中心にお話しします。
Nod1, Nod2
Nod1は細菌の持つiE-DAPを含むペプチドグリカン小分子、Nod2はMDPを含むペプチドグリカン小分子を、それぞれ細胞質内で認識します。LRR領域がペプチドグリカンフラグメントの認識に重要であり、結合によってコンフォメーション変化が起きるとNODで重合体化します。その後、N末端側のCARDを介してアダプター分子であるRIP2に結合し、NF-kBの活性化や、ERK,p38の活性化を起こして、サイトカインやケモカインの産生を誘導します。
さらにNod1、Nod2は多くのメンブレンタンパク質と相互作用することがわかってきました。Nod2はERBIN やERBB2IP、RIP2と共にプラズマメンブレンに集合することによってNF-kB活性化を起こすといわれます。またNod1、Nod2とも、ATG16L1によって細菌侵入部位のプラズマメンブレンに呼び寄せられ、オートファジーを誘導します。
近年、Nod1、Nod2の活性化はペプチドグリカン小分子だけでなくsmall Rho GTPase RAC1の活性化を介していることが報告されました。腸内細菌の病原因子は宿主の腸上皮細胞の細胞骨格に影響を与え、細菌が細胞に結合したり細胞内に入ったりするのを促進しているが、この病原因子によるsmall Rho GTPase活性化によりNod1、Nod2のシグナリングが引き起こされると言っています。
インフラマソームを形成するNLR
インフラマソームは細胞質に存在し、プロテアーゼの一種caspase-1の活性化を引き起こすタンパク質複合体です。インフラマソームは、病原感染時、毒素など特定の病原成分を働きで活性化されるほか、アスベストなどの外来性物質、コレステロール結晶などの内在性物質によっても活性化されます。近年、こうした危険信号が病態と関わる様々な疾患についてインフラマソームの関連が相次いで報告され、疾患の病態解明、治療標的として注目を集めています。
インフラマソームの重要な役割は、炎症誘導性のサイトカインであるIL-1bとIL-18の分泌です。IL-1bとIL-18はマクロファージ、樹状細胞等の貪食系免疫細胞が主な発現細胞です。IL-1bやIL-18は病原成分や炎症誘導性サイトカインによる刺激等により前駆体として誘導合成され、細胞質内に蓄積されます。これらの前駆体はそのままでは細胞外に分泌されず、活性もありません。IL-1bや IL-18の成熟にはインフラマソーム中のCaspase-1の活性化が必要です。他の多くのcaspaseがアポトーシスに関わるのに対して、Caspase-1は基質中の4残基を中心に特異的に認識し切断するプロテアーゼでで、caspase-1は、この基質特異性でIL-1bとIL-18の前駆体を切断し、 成熟型IL-1bとIL-18を生成します。このcaspase-1によるIL-1bとIL-18のプロセシングは両サイトカインの分泌並びに炎症誘導活性に必須であるため、IL-1bとIL-18が病態に関与する炎症性疾患の多くに、インフラマソームの活性化が関係している可能性が示唆されています。
インフラマソームは、特定のシグナル認識に関わるタンパク質、アダプタータンパク質であるASC、実行分子caspase-1からなります。シグナル認識関わる分子にはNLRP3, NLRP1, NLRC4, AIM2などが知られています。
またインフラマソームの果たす役割はIL-1b, IL-18の分泌を介した炎症誘導反応だけでなく、ピロプトーシスと呼ばれる細胞死やオートファジーの誘導にも関わっていると考えられています。個々のインフラマソームについてお話しします。
NLRP3
NLRP3インフラマソームは、外来性、内在性の多くのシグナルで活性化されることが知られています。この活性化のしくみについては未だ議論の対象となっていますが、インフラマソームの活性化に至る過程については3つの情報伝達系が考えられています。
まず、ATPや孔形成型毒素は細胞膜の透過性を上げ、カリウムイオン(K+)の細胞外流出を引き起こすことで、NLRP3インフラマソームの活性化を引き起こすと考えられる説。細胞外ATPはP2X7受容体に結合し、Pannexin-1による孔を形成を介してK+流出を引き起こします。またK+流出はレンサ球菌のhemolysins、リステリアのlisteriolysin Oなど病原細菌の持つ孔形成性毒素によっても起こります。さらに、アルム、コレステロールやハイドロキシアパタイトなどの結晶などによるインフラマソーム活性化においてもカリウム流出はインフラマソームの活性化に必須の役割を果たしています。これらの物質で細胞膜のカリウム透過性がどのように変わるかは、よくわかっていません。
次に、、アルム、シリカ、アスベスト、bアミロイドなどの結晶の取り込みによってリソソームの損傷を引き起こし、インフラマソームが活性化される系です。この過程でリソソーム中のプロテアーゼ、カテプシンBが細胞質内に放出されます。このとき、カテプシンBの阻害剤によりインフラマソームの活性化が抑制されるとする報告があります。しかしカテプシンBを欠損したマクロファージからもインフラマソーム依存的なIL-1bの産生が正常に見られるという、矛盾した報告があります。またカテプシンBがNLRP3インフラマソームとどう相互作用するのかは全く不明です。
最後に、インフラマソームの活性化には活性酸素(ROS)の関与するとする説があります。その根拠は、ATPやアスベスト、シリカなどの結晶などによるNLRP3活性化がROSの合成阻害剤やNADPHオキシダーゼのノックダウンにより抑制されることです。ところが、NADPHオキシダーゼ欠損患者の単球から正常のIL-1bの産生が見られることから、ミクロソーム系がインフラマソームの活性化に必須なROSの発生源であるかは不明でです。一方で、ミトコンドリアもNLRP3インフラマソーム活性化を引き起こすROSの発生源として報告されています。その報告によると、ミトコンドリアに存在するレドックス感受性タンパク質であるTXNIPがNLRP3活性化経路に関わるといいます。しかし、インフラマソーム活性化と関連するROSの発生源についてはさらなる解析が必要と思われます。
NLRC4
NLRC4はマウスチフス菌,赤痢菌,緑膿菌,レジオネラに対する防御に関与することが報告されています。これらの細菌の感染はNLRC4, caspase-1活性化を介して、IL-1b,IL-18分泌を誘導します。NLRC4インフラマソームはフラジェリンに応答して活性化されます。このフラジェリンに対する応答はタイプIII またはIV分泌系(T3SS, T4SS)が必要であることからフラジェリンが細胞内に入ることがNLRC4の活性化に重要であると考えられています。しかし、フラジェリンを持たない赤痢菌株もNLRC4依存的にCaspase-1を活性化したり、さらにT3SSの構成成分であるrod タンパク質がNLRC4のアンタゴニストとして報告されています。最近、NLRC4は直接これらのリガンドを認識せず、フラジェリンはNAIP5、 rod タンパク質はNAIP2と結合してNLRC4を活性化することが示されました。
NLRP1
NLRP1の多型はマウスにおいて炭疽菌の致死因子に対する感受性と相関します。また、致死因子がNLRP1によるcaspase-1依存的IL-1b,IL-18分泌および細胞死を誘導します。一方、再構成系を用いた実験で、caspase-1の活性化はNLRP1,caspase-1、dNTPおよびMDPによって起こることが報告されましたが、生理条件下でのNLRP1インフラマソームの活性化におけるMDPの役割は不明です。このように、致死因子がNLRP1インフラマソームを活性化しくみには不明な点が多いです。致死因子はカテプシンBの放出も誘導し、NLRP1インフラマソームの活性化において重要であると考えられています。
NLRP6
NLRP6は腸の上皮細胞や、粘膜固有層(Lamina propria)、腸のMyofibroblastで高発現していて、腸疾患との関連性について最近注目を集めていますが、NLRP6のリガンドはまだ同定されていません。当初、NLRP6の過剰発現系により、NLRP6はNF-kBやCaspase1を活性化すると報告されましたが、その後、NLRP6欠損マウスマクロファージを用いた実験で、NLRP6はNF-kBやMAPKによるケモカイン、サイトカインの産生を抑制するという反対の報告がなされました。またNLRP6の欠損マウスは大腸菌やリステリア菌、サルモネラ菌の感染に耐性であることが報告されています。このように現段階では、NLRP6は宿主防御においてポジティブにもネガティブにも働くものと推測されています。
NLRP12
NLRP12のリガンドもまだ見つかっていません。NLRP12は主に免疫細胞で発現していて、NLRP12が直接または間接的に細菌の成分を認識していると考えられています。NLRP12はcaspase1を介してIL-18を産生するともいわれ、インフラマソームの形成に働いていることが示唆されています。 NLRP12はYersinia pestisを認識して宿主の耐性に働いており、欠損マウスでは細菌感染に感受性が高いという報告があります。その一方で、NLRP12はNF-kB やERKの阻害により炎症を抑制するために、細菌をコントロールすることができず、欠損マウスはサルモネラ菌の感染に耐性であるという報告があります。このようにNLRP12の宿主防御における機能は現在よくわかりません。
第三章 病原細菌とNLR
サルモネラ感染
サルモネラはグラム陰性菌で、人ではsalmonella entericaの感染が問題となっています。腸内細菌の全身感染、高熱、腸の出血などの症状を示し、年間、20万~60万人が死亡しています。S.tophimrium感染による症状は下痢や吐き気など腸に限定されていて4-7日ほどで回復しますが、年間約9千億人の感染報告があります。
マウスS.typhimurium感染モデルには全身感染を引き起こすモデルと腸炎を引き起こす2種類のモデルがあります。感染初期にはタイプIII分泌系のT3SS-1が関与していて、細菌が宿主の細胞内に侵入するのに働き、細菌が宿主内で生存、増幅するのにT3SS-2が関与しています。感染後期にはマクロファージに取り込まれた細菌が、肝臓や脾臓に回って増幅し、マウスは約1週間後に死亡します。
サルモネラ感染におけるNLRの役割としてはin vitroで、Nod2がサルモネラ菌を認識し、抗菌作用を誘導したりオートファジーを誘導することが証明されています。またNod1もサルモネラ菌により樹状細胞でのNOの産生を誘導するといわれています。先に話したようにNod1やNod2はペプチドグリカン小分子を認識しますが、T3SS1のエフェクターSopEによって修飾を受けたsmallRho GTPaseが危険シグナルとしてNod1に認識されるとの報告もあります。同様にほかのT3SS1のエフェクターSipAもNod1/Nod2を介したNF-kBの活性化を誘導することが報告されています。
しかし、in vivoではNod1もNod2も全身感染に必須ではないようです。T3SS-1非依存的な条件においてのみNod1欠損マウスで細菌数の増加および死亡が認められるという報告があるほか、Nod1/Nod2ダブル欠損マウスやそれらのアダプター分子であるRIP2の欠損マウスでも炎症の減少、IL-17の機能の低下、腸内の細菌数増加、などがみられますが、いずれもT3SS-2のみのの発現状態の時です。T3SS1が発現していれば、これらの欠損マウスは野生型との差がみられません。これらのことから、Nod1やNod2はサルモネラ感染時、マイナーな役割しか果たしていないと考えられます。
Nod1、Nod2に加え、NLRC4がフラジェリンとrodタンパク質PrgJを認識し、マクロファージや樹状細胞からIL-1bやIL-18を産生します。これはT3SS-1に依存的であり、サルモネラ菌が宿主内に侵入することが必要です。一方、T3SS-2はNLRC4による認識に関与しません。Caspase-1の欠損マウスではMesenteric lymph nodes(MLN)や肝臓、脾臓などで細菌数の増加が認められ、マウスは死に至ります。よってCaspase-1はサルモネラ感染において生体防御に重要な働きをしていると考えられています。
しかし、NLRC4はCaspase-1活性化の主な上流因子でありながら、NLRC4の欠損マウスではCaspase-1欠損マウスのような表現型は見られません。NLRP3もサルモネラ感染時、マクロファージにおいてnon-canonicalな系を活性化するのに、NLRC4の欠損マウスと同様に、NLRP3の欠損マウスもサルモネラ感染に対して表現型をあまり示しません。またIL-1bやIL-18の欠損マウスでも全身感染に遅れがみられる程度です。このことはピロプトーシスが重要な役割を果たしていることを示唆しています。がピロプトーシスによってマクロファージ内に隠れている細菌を放出し、呼び寄せられた好中球によって細菌が排除されていると考えられます。このピロプトーシスによる排除に比べて、IL-1bやIL-18は細菌のコントロールにマイナーな役割しか果たしていないといえます。
EPEC、EHEC、C.rodentium感染
EPEC、EHEC、C.rodentiumはグラム陰性、細胞内感染性の病原細菌です。EPEC、EHECは人の病原大腸菌であり、EPECは主に子供で下痢を起こすものの通常complicationはおこさないのに対し、EHECの感染は軽い腸炎から劇症の出血性大腸炎まで症状の程度にとても差があります。人のEPEC、EHECの感染におけるNLRの役割についてはほとんど知られていないものの、それに対応するマウスの病原細菌C.rodentium感染による腸炎症モデルからNLRの役割がわかってききました。このマウスモデルでは感染3~4日目になると、細菌は大腸にまで広がり、細菌の数は5~14日でピークに達します。その後、MLN、肝臓や脾臓など全身にも広がり、大腸に感染してから3~4週間で細菌が除去されます。C.rodentiumはT3SSにより腸へ結合し、腸上皮を壊します。
Nod1はNod2 はin vitroおよびin vivo でC.rodentiumを認識することが報告されています。感染初期にNod1とNod2によりIL-6を介してIL-17の産生が誘導されます。またストローマ細胞でNod2がCCL2/CCR2を活性化することによって、炎症性細胞を感染部位に呼び寄せ、IL-12を介して細菌を除去すします。Nod1、Nod2はC.rodentiumのペプチドグリカン小分子を認識しますが、前章のサルモネラのSopEと同様に、T3SS1のエフェクターEspTも関与すると考えられています。EspTはSopEと同様にsmallGTPaseに作用し、Nod1/2を介して、NF-kBの活性化やERKの活性化をします。これらにより、Nod1、Nod2の欠損マウスは感染初期段階では炎症が弱いが、細菌の除去が起こらないため細菌数が多くなりその結果、感染後期ではよりひどい炎症を起こすことになります。しかしNod1、Nod2単独の欠損マウスではほとんど表現型を示さず、Nod1とNod2のダブル欠損マウスで、感染後期で野生型より腸炎が悪化がみとめられました。このことはNod1とNod2はC.rodentiumの感染に対してリダンダントであることを示しています。
またcaspase-1/ caspase-11欠損マウスはC.rodentiumの感染により腸内の細菌数の増加、腸炎、過形成が認められ、感受性が高いことが報告されました。NLRP3とNLRC4の欠損マウスもIL-1bやIL-18の欠損マウスと同様な表現型を示したことから、NLRP3/MLRC4/ IL-1b /IL-18がC.rodentiumのコントロールに重要な役割をはたしていることが示唆されています。C.rodentiumはまた、non-canonicalなcaspase-11/NLRP3インフラマゾームを活性化すると言われています。
ヘリコバクターピロリ菌感染
Helicobacter pyloriはグラム陰性細菌であり、50%の人の消化管粘膜でみつかる。ほとんどの人は感染していても何の症状も示さない。しかし一部の患者では細菌によって誘導される炎症反応により、ulcerを形成し、リンフォーマやアデノカルシノーマを引き起こしたりする。H.pylori はウレアーゼを産生して消化管のpHをあげることで上皮の粘度をあげて、粘膜層への侵入を可能にしている。さらにH.pyloriは修飾されたLPS、フラジェリンを発現して、TLR4やTLR5による認識を逃れている。また、孔形成毒素VacAにより上皮のアポトーシスを誘導し、T細胞の分化や活性化を抑制する。免疫を抑制する一方で、H.pyloriはT4SSを介したCagAの輸送によって、炎症反応を誘導する。CagAは様々な宿主免疫のシグナル伝達を阻害し、胃がんの発生に関与する(30)。
遺伝子解析から、Nod1,Nod2,IL-1bの多型が胃がん発生の増加と関連していることがわかったた(31)。実際、Nod1はH.pyloriのペプチドグリカン小分子を認識してNF-kBを活性化し、炎症を誘導することが確認された(32)。またH.pyloriはIL-1bやIL-18の産生を誘導することが確認され、Caspase-1/caspase-11の欠損マウス、ASCやIL-1bの欠損マウスは野生型に比べて胃の中のH.pyloriの細菌数増加が認められた(33)。こののようにインフラマソームがH.pyloriの感染にかかわっていることが示唆されている。
Clostridium difficile感染
C.difficileはグラム陽性で偽膜性大腸炎を起こす病原菌です。先進国で多く、現在アメリカでは年間約50万人が感染症にかかっており、その5%程度の患者が重症化し死に至ります。さらに、患者数、重症化は年々上昇する傾向にあり、大きな問題となっています。C.difficileは健康な人も持っていることがありますが、こうした健康な人の場合、C.difficileは他の細菌によって数が少なく保たれているだけではなく、宿主の免疫が毒素の働きを押さえ込んでいます。しかし、ある種の抗生物質を投与することにより常在細菌が減少、構成が変わると、C.difficileが増殖することがあります。 C.difficileは毒素を持っていて、腸を傷つけ、炎症を起こして大腸炎を起こします。
Nod1はC.difficileを認識してNF-kBを活性化しサイトカイン産生を誘導します。Nod1の欠損マウスではC.difficile感染によるマウスの死亡率が高くなりました。しかしながら不思議なことにC.difficileの細菌数や腸の傷み具合は野生型と同等でした。腸上皮が障害された時、常在細菌が体の中に侵入して全身に回り、全身性のより激しい症状を示すことがあります。これをを防ぐのに好中球が障害を受けた腸患部に集まり体への侵入しようとする常在細菌のを除ぎますが、この好中球の呼び寄せにNod1によるCXCL1、CXCL2の産生が関わっていることがわかりました。一方Nod2はC.difficile感染に関与しておらず、腸炎も生存率も野生型と同等でした。
またC.difficile毒素によって好中球でNLRP3/ASCのインフラマソームの活性化を介してIL-1bが分泌されます。このIL-1bはCXCL1ケモカインを産生してさらに好中球を呼び寄せます。この正のフィードバックによる好中球の感染部位への誘導が、常在細菌が全身に回り全身性の炎症を引き起こすのを防いでいると考えられます。
腸内常在細菌とNLR
腸内細菌叢の違いは病気の感受性に影響を与えます。そこで、宿主免疫が定常状態の腸内細菌叢そのものの形成に重要であるのではないかと考えられました。NLRについても、例えば野生型マウスと比べて、Nod2欠損マウスの腸内細菌はバクテロイデス属の細菌が増えるという報告や、NLRP3、NLRP6欠損マウスの腸内細菌はprevotellaceaeが増えるという報告がなされましたが、他のグループは細菌叢にこのような差が見られなかったと報告しています。よって、現在のところ、NLRが腸内細菌叢に影響を与えるか明らかでありません。飼育環境は腸内細菌叢に大きく影響を与えるため、腸内細菌叢の解析にはlittermateを用いて飼育環境を同一にするなどといった注意が必要であると考えられます。
また、DSS投与により腸上皮障害を起こすマウス腸炎誘導モデルを用いて、Nod1/Nod2欠損マウスは野生型マウスに比べて感受性が高いことが報告されています。このことはヒトで、NOD1やNOD2の遺伝子多型はクローン病(UC)や炎症性大腸炎(IBD)のなりやすさと関係していることと一致すします。
NLRP3欠損マウスも、DSSによる腸炎や、TNDSと(AOM)/DSSによる大腸がんの発生のモデルにおいて、IL-1bやIL-18などのサイトカインの産生の低下により感受性が高くなることが報告されています。しかしながら、NLRP3欠損マウスはDSSに耐性を示すという報告もあり意見が分かれています。またNLRP3の遺伝子多型がクローン病の感受性に影響するという報告もありますが、関係しないという報告もあり、今後さらなる研究が期待されます。NLRP6 やNLRP12はNF-kBやAKTのシグナリングをネガティブに調節することで炎症を抑え、腸上皮細胞の修復や増殖に関与し、DSSによる腸炎の発生に対して抑制的に働くと言われていますが、まだ不明な点が多いです。
まとめ
このように、NLRは腸内の細菌叢や病原細菌感染をコントロールする重要な働きをしていると考えられます。 しかし、研究グループによって実験条件が違うことで、相反する結果が多数報告されていて煩雑です。また、NLRP6やNLRP12についてはリガンドも見つかっておらず、他にも機能がよくわかっていないNLRが多数存在します。NLRと腸内細菌について、今後さらなる研究が期待されます。
