腸内細菌とメンタルヘルス

腸内細菌とメンタルヘルス

腸と脳の関係について、最近の報告をまとめてみました。

 

 

 

第一章 腸内細菌と脳

腸内細菌とは

腸内には約1×1013の細菌がいます。Firmicutes, Bacteroidetes, Proteobacteria, Actinobacteriaの4つのメジャーな属と、Fusobacteria, Verrucomicrobiaという2つのマイナーな属からなります。健康な人の腸内細菌は似ていますが、人によって構成は異なります。腸内細菌は、恒常性維持と適切な機能を保つのに重要な働きをしています。

腸内細菌は、食べ物を消化したり重要な栄養素を作るのに重要です。例えば短鎖脂肪酸(SCFA)や、胆汁酸(Bile acid)、カテコールアミンを作ります。またビタミン12、一酸化窒素(NO)の産生を調整したり、神経伝達物質であるトリプトファンや、5-HT、グルタメート、GABA、アセチルコリン、ドーパミン、ヒスタミンの合成を行います。様々なホルモン、例えばペプチドYYは免疫細胞の機能を調節したり、不安や気分を調整したりしています。

炭水化物は細菌によってSCFA(プロピオネート、アセテート、ブチレート)を産生します。グルタミン、グルタメート、GABAなどの神経伝達物質はこのSCFAによって作られます。腸内のセロトニンの産生はSCFAによるトリプトファン5-ハイドロキシレースの上昇によって起こります。さらにSCFAはチロシンハイドロキシレースを産生することにより、アドレナリンや、ドーパミン、ノルアドレナリンの産生を調節します。

このように、腸内細菌やその代謝物は神経システムの恒常性維持にも重要な働きをしています。

腸内細菌と脳の関係

腸内細菌は内分泌系、免疫系、血液脳関門(BBB)や腸管バリアーを介して、直接、中枢神経系(CNS)の機能に影響を与えています。また一方で、腸内細菌はSCFAのような代謝物や神経伝達物質などの産生を介してCNSに間接的に影響を与えます。

反対に、脳はストレス刺激がある時、HPA(hypothalamic-pituitary-adrenal)シグナルを介して腸に影響を与えます。HPAシグナルはストレスに応答して、免疫細胞を活性化して、炎症性サイトカインの産生を誘導します。コルチゾールの上昇は腸の透過性をあげて、グラム陰性菌から出るLPSの量を増加させます。血中に過剰なLPSが放出されると、HPAを介して全身性のまたは神経性の炎症が起きます。これによって、鬱にかかわるコルチゾールが上昇します。

このように腸内細菌は腸と脳をつないでいます。それゆえ、腸や脳の異常はそれぞれの恒常性に影響を与え、末梢神経、中枢神経における炎症を引き起こします。

腸内細菌の異常

Dysbiosisは病原細菌が増加したり有用な細菌が減少したりすることを言います。Disbiosisによって、次のようなことが起こります。

・腸内細菌叢が変わり、代謝産物の量が変わる。
・ゴブレット細胞の減少により粘液産生の量が減少する
・腸管のタイトジャンクションの発現が減り、腸透過性が上昇する。
・病原菌やLPSなどの毒素の全身移行が上昇し、炎症性サイトカインの産生を上昇させる。
・全身性炎症が増加し、脳の機能に影響を与える。
・BBBの透過性をあげ、免疫細胞や毒素の脳への移行が上昇し、脳内の炎症性サイトカインやケモカインの量が上昇する。
・神経免疫を変える。

このように、Disbiosisは腸内細菌を変え、炎症性サイトカインの産生を誘導し、精神障害の発達に直接的に関与しています。

腸内細菌による免疫の異常とメンタル障害

ストレスによってHPA経路のホルモンの産生が増加し、コルチゾールの産生が上昇します。それによって、直接的に腸管バリアーに影響を与えたり、粘膜に影響を与えたりすることにより、腸内細菌が変化します。透過性が上昇しグラム陰性菌やその代謝物(LPSやペプチドグリカンなど)の全身移行が起こります。LPSやペプチドグリカンはToll-like Receptor(TLR)を介して認識され、IL-6やTNFα、IL1βなどの炎症性サイトカインやCXCL-1、MIP1αなどのケモカインの産生を誘導します。これらはHPAの過剰活性化を誘導し、コルチゾール産生を増加させます。腸内細菌はまた間接的に、GABAや5-HT、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の量を変えます。

臨床では、炎症性サイトカインの上昇がうつ病患者で診られます。またマウスの実験では腸内細菌のdysbiosisはBDNFの減少、HPA経路の活性化、グルココルチコイドのネガティブフィードバック、ストレス応答の上昇、脳発達の異常、社交性の減少や不安、認知の欠損などの異常な行動などが見られました。

腸内細菌と神経回路の異常

マイクログリアはCNSにおける重要な免疫細胞です。

第二章 それぞれのメンタル障害と腸内細菌

腸内細菌がないマウスの研究から

腸内細菌とメンタル障害の関係を示す研究がマウスでたくさん行われています。まず、研究者たちは、細菌を全く持っていない(Germ-free)マウス(GFマウス)を使って細菌がどのように脳に影響を与えるか調べました。

GFマウスは普通のマウスに比べて、社交性がなくなり、多動性がなくなり、不安が減少しました。この現象は脳内の神経伝達物質の量と関係していました。GFマウスは血中のトリプトファンが多く5-HTは少ないこと、またストレスホルモンが多くBDNF(脳由来神経栄養因子)が少ないことがわかりました。さらに、GFマウスは背側海馬における神経形成に異常があること、マイクログリア(小膠細胞)が未熟なこと、blood–brain barrier (BBB)血液脳関門の透過性が変わっていること、セロトニン、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンの量に違いがあることがわかりました。腸内細菌は社交性や不安に関係するといわれているアミグダラ(偏桃体)の機能・構造や、prefrontal cortex(前頭前皮質)ミエリン形成を調整するといわれています。

このように、腸内細菌がないと、神経伝達物質や神経増殖因子、ストレスホルモンなどの量に影響し、社交性や、認知、恐怖などの機能に大きく影響します。

腸内細菌を持っている普通のマウスに抗生物質を投与すると、腸内細菌が変わり、GFマウスと同様に、探索行動が増えたり、不安が減ったり、hippocampus(海馬)やアミグダラのBDNFの量を変えることがわかりました。また、抗生物質処理によって腸内細菌が変わると、BDNF、NR2B、5-HTトランスポーター、ニューロペプチドYと関連して、認知機能に影響を与えます。

臨床研究から

たくさんの臨床データから腸内細菌と様々なメンタル障害に関係があることが示唆されています。

1.不安障害

不安障害とうつは最もよくあるメンタル障害です。不安障害は緊張や心配、ネガティブな考え、落ち着かないなどの症状から生活に支障をきたす障害です。不安は腸疾患をともなうことがよくあります。腸内細菌の変化によって神経伝達物質や免疫ファクターの量が変わることによって起こります。不安障害では腸内細菌の量の減少、多様性の現象がみられます。また、SCFA産生細菌の減少やEschrichia-Shigella, Fusobacterium、Ruminococcus gnavusの増加が特徴として見られました。

また細菌感染はMGB経路を介して不安障害を悪化させます。たとえば、カンピロバクター(Campylobacter jejuni)感染はc-Fosタンパク質(神経活性化マーカー)の活性化を介して鬱様症状、不安様症状を引き起こしますし、Citroacter rodentium感染も迷走神経を介して不安障害を増悪させます。またTrichuris muris感染は免疫、代謝システムを介して不安障害を増悪させることが報告されています。

2.鬱

鬱は最もよくあるメンタル障害です。楽しみを感じない、モチベーションがない、気分が落ち込む、希望がない、不安が生活に支障をきたします。ストレスや、食事、運動、肥満、喫煙、不眠、ビタミンDなどの栄養の欠損などのファクターが鬱の発症に影響を与えます。鬱は、HPAシグナル伝達の過剰活性や、神経免疫と神経伝達物質のシグナル伝達の異常調節、トリプトファンの代謝と関係しています。

鬱と腸内細菌の関係がわかってきました。腸内細菌の変化は炎症や神経伝達物質のシグナル伝達の異常をきたし、鬱を引き起こします。たとえば、腸内細菌の変化は腸管のバリアーを壊し、透過性が上がることによって、グラム陰性菌(エンテロバクテリアとか)が全身に入って行きます。リポポリサッカライド(LPS)に応答する、IgAやIgMなどの交代を介した免疫反応を活性化させることにより、最終的にうつが引き起こされます。

アルコール依存症の患者の糞便を抗生物質を処理したマウスに移植すると、不安や鬱の症状がみられ社交性が減少しました。また、このマウスではBNDF、α1,GABAタイプAレセプター、metabotropic glutamateレセプター1、核内のプロテインキナーゼCεが減少していました。反対に、アルコール依存のマウスに健康な人の糞便を移植すると、不安や鬱症状が減少しました。また、無快感症(楽しみを感じない)のラットの糞便を抗生剤を処理したマウスに移植すると、無快感症、痛み、うつ症状が現れました。

臨床研究では、鬱の患者の腸内細菌は多様性と量が減少していました。

うつ病の患者では、キヌレニン経路の異常により、血中のIL-6とIL-8が上昇していて、IL-2と5-HT、quinolinic acidが減少していました。うつ病患者は過剰なエンテロバクテリアのLPSにより、血中の抗体量が上昇しています。うつ病患者の糞便を移植したマウスモデルでは、ストレスによって腸管透過性が上昇し、腸内細菌の全身絵の移行が見られました。また、このマウスでは鬱症状や不安が引き起こされました。

6つの腸内細菌解析の結果、うつ病患者の腸内細菌叢では、
増加:Blautia Klebsiella, Anaerostipes, Clostridium, Parasutterella, Parabacteroides, Phascolarctobacterium, Lachnospiraceae incertae sedis,Streptococcus;
減少:Dialister, Faecalibacterium, Bifidobacterium, Ruminococcus, Escherichia/Shigella;

3.自閉症スペクトラム障害(ASD)

4.ADHD

5.統合失調症

6.躁うつ病

第三章 細菌を利用した治療法

プロバイオティクス(Probiotics)

プロバイオティクスとは生きた細菌を接種することで、私たちの体に有用な働きをうながすことです。例えば乳酸菌は認知障害やストレス関連障害などの患者に効果があります。LactobacillusとBifidobacteriumはもっとも不安を軽減する効果があります。マウス実験で、B. longum、 B. infantis、L.helveticus、L.rhamnosusを投与すると、免疫の炎症性因子を減らしたり、GABAレセプターの発現を上昇させたりすることがわかっています。L.rhamnosusは特異的な領域でのGABAの発現に影響を与え、コルチコステロンの量を下げて、うつ症状を減らします。B.longumは不安症状を減らし、BDNFの量を減らします。L.farciminisはLeaky gut症候群や多動性を減少させます。L.helveticus+B.longumは背側海馬における神経形成を減少させ、ストレスをかけたマウスで不安症状が減少します。

また、人においても、L.helveticus+B.longumがストレスを減少させることがわかっています。Bifidobacterium、Streptococci、Lactobacilliの混合はASD患者における腸疾患を軽減します。また、L.rhamnosusサプリメントをを幼いころに摂るとADHAのリスクが減少します。B.pseudocatenulatumは、幼少期にストレスをうけた大人において、脳内の化学物質を変化させ、行動を改善します。

プレバイオティクス(Prebiotics)

プレバイオティクスとは私たちの健康に有用な細菌の増殖を促す食品のことです。これまでの研究で、プレバイオティクスはうつや不安、認知障害の患者に有効であることが示されています。プレバイオティクスは脳の機能を改善したり、病気の症状を軽減したり、痴ほう症やIBS、ASDのの患者の健康を増進したりすることが報告されています。

非消化性のフルクトオリゴサッカライド(FOS)やビムノ・ガラクトオリゴサッカライド(BGOS)がB.longumなどの有用細菌の生存を促進し、ストレスによるHPA経路の活性化を抑制します。フルクトオリゴサッカライド(FOS)やガラクトオリゴサッカライド(GOS)の混合は、メンタルストレスを与えられたマウスで鬱や不安症状に改善が見られました。BGOSの投与はラットにおいて、LPSによる不安うつ症状を減少させました。

プレバイオティクスは血中のトリプトファンやコルチコステロンの量を減らし、腸の5-HTの量を増加させることで、鬱や不安を防ぎます。IBSの患者にBGOSを3か月投与すると、不安症状が減少しQOLが改善しました。FOSはIBD患者においてBifidobacteriaの量を増加し、不安を減少させました。

Synbiotics

Synbioticsはプロバイオティクスとプレバイオティクスのコンビネーションで、有効な腸内細菌の生存を促進することで効果を得る方法です。プロバイオティクスとFOSのサプリメントの接種により、鬱症状の改善が見られました。L.acidphilusとB.bifidum、B.lactis、B.longumのミックスはBDNFの毛中濃度をあげ、うつ病患者において症状を改善しました。また、L.reuteri、B,longum、GOSのミックスは、自閉症の子供において、SCFAの量が上昇、アンモニウムの量が減少していました。L.paracasei、B.animalis LactisとGOS、オリゴフルクトースのミックスの投与はストレスのある人において、HPAの活性化やIL-10やIgA,LPSの産生の調節により、ネガティブな感情を減らしました。うつ病患者は4-9週間で鬱症状が軽減されました。

食事療法(Dietary Modification)

腸内細菌の構成や多様性を決めるのは食事です。牛肉を与えられたマウスは腸内細菌の多様性が増加し、記憶がよくなり、不安が減少しました。またインドの研究では、健康なベジタリアンの人はFirmicutes(34%)がBacteroidetes(15%)に比べて増加していましたが、ベジタリアンでない人はBacteroidetes(84%)、Firmicutes(4%)でした。ベジタリアンでない人はAlistipes, Bilophila, Bacteroidesが増加し、Roseburia, Firmicutes, Eubacterium rectale, Ruminococcus bromiiが減少していました。食物繊維豊富な食事では、健康な腸内細菌の構成が認められました。

食事は自閉症の治療にも推奨されています。たとえば、Ketogenic diet(高脂質、準高タンパク質、低炭水化物)は自閉症の子供の行動を改善しました。また、発作や、学習障害や社交障害の症状を改善しました。Ketogenic dietはさらに、統合失調症の症状を改善しました。微量栄養素のサプリメントはADHDのスコアを下げ、Bifidobacteriumの量が増加していました。

抗生物質とプロバイオティクス、グルテン&カゼインフリーの食事は、統合失調症の患者に効果があることが示されました。高食物繊維の食事は大腸のpHをさげ、病原細菌の増殖を抑制します。幼児期のストレスには、オメガ3とオメガ6不飽和脂肪酸が用いられ、腸内細菌の構成や量を調整、とくに、BifidobacteriumやLactobacillusの数を増加させました。

便微生物移植(Fecal Microbiota Transplantation; FMT)

まとめ